【本の感想】黒武洋『そして粛清の扉を』

黒武洋『そして粛清の扉を』

2000年 第1回 ホラーサスペンス大賞受賞作。

黒武洋『そして粛清の扉を』は、ざっくりいうと教師 V.S. 生徒の構図の、学園バイオレンスものです。

皆さん、明日の卒業式には、果たして何人が出席できるでしょうか……それは、これからの24時間で決まります。

中年の高校国語教師 近藤亜矢子は、3年D組29名を前に、こう高らかに宣言します。

このクラスの生徒たちは、揃いも揃って極悪非道極まりない不良高校生。亜矢子は、教室に立てこもり、戯れのように生徒たちの罪悪を暴きながら、装備したナイフと拳銃でまさに血の粛清を行います。

クラスのボス的存在は、奥村進太郎、白井竜彦、金沢直子。亜矢子は、彼らを除く面々を、残りの生徒に見せ付けるが如く、順に血祭りに上げていきます。序盤は、ボスキャラたちがどんな非道を犯したのかが気になるところ。亜矢子は、生徒だけでなく、様子を見に来た教師 梨田もその行状の悪さをあげつらい息の根を止めてしまいます。

この教育現場の未曾有の危機に登場するのは、弦間重光 班長率いる警察特殊部隊の面々。人質解放に向けて作戦行動を繰り広げるのですが、亜矢子は易々と彼らを排除してしまいます。

亜矢子の要求は、一人につき2千万、計5憶円のキャッシュの身代金。生徒の親たちは、子供のために奔走しますが、要求額を満たせない親、既に死亡している生徒の親ら、父母の間で悶着が始まります。著者は、話の膨らませ方がお上手です。単調に陥りそうになると、場面転換をしたり、アクシデントを起こしたりと、流れを切らすことなく話を盛り上げてくれます。

なんの躊躇いもなく、淡々と生徒たちを殺戮していく亜矢子 。暴露される高校生のあまりの極悪ぶりに、金目当てではなさそうなのは気付くでしょう。興味の中心は、亜矢子の動機です。そして、ついに亜矢子は、自身の娘の死に関連した三名をTVを使って指名手配をかけるのです。三名との交換条件は生徒たちの身代金。ここからラストにかけては、様々なことが明らかになる怒涛の展開です。

TVクルーに扮し教室への潜入に成功した弦間。解放された女性徒1名を除き残りの生徒は、奥村、白井、金沢、そして・・・。弦間は事件を制圧することができるのか。ついに指名手配の三名が学校に到着して・・・ と続きます。

クライマックスは、どんでん返しの連続です。冒頭の一見無関係と思えるエピソードが効いてくる仕掛け。そして、予想を外す展開をみせてくれます。ただし、読了してみれば、本作品は、不幸な女性の空前絶後の恨み節でした。

いち教師である亜矢子の武器や暴力に長けた様といい、死屍累々たる教室の風景といい、現実感が甚だ乏しい作品です。だいたい、こんなタチの悪い少年少女が、一つのクラスに集うはずがありません。この手の作品は、これくらいの無軌道ぶりが、ちょうど良いのでしょう。残虐な行為が描かれていても、読み進めるのに抵抗感が少ないのです。亜矢子が粛清を実行する度に、無邪気に快哉を叫んでしまいました。ただ、ラスト2ページは必要?という疑問があります。予想外の展開は、行き過ぎると疲れてしまいます。