【本の感想】坂東眞砂子『山妣 (やまはは)』

坂東眞砂子『山妣(やまはは)』

1996年 第116回 直木賞受賞作。

坂東眞砂子『山妣』は、明治末期、東北の旧炭鉱町を舞台に、そこに住まう人々の濃密な人間模様が描かれた作品です。(タイトルが読み難いのがどうも・・・)。

ホラー小説家のイメージの強い著者ですが、本作品もタイトルからして、何やら怪しげな雰囲気を漂わせています。

雪山を徘徊する子を喰らう鬼。そんな言い伝えが囁かれる村へ、 地主 阿部家に招かれ、芝居を生業とする両性具有の青年 涼之助と、その師匠 市川扇水が、村芝居の稽古をつけに訪れます。

雪深い田舎の風物と、そこに暮らす人々が、美的でもあり、ねちっこくもある筆致で描かれます。愛憎渦巻く村社会へ迷い込んだ、二人の異分子。平穏を装っていた村人たちに広がる波紋。男と女、男と男の欲望が露わになり、そして運命の歯車が動き始めます。

続きが気になるところで、物語は一転、過去に遡り、隆盛を極めた村とその周辺にある妓楼の娼婦 君香(いさ)に、スポットが当たります。 君香が受けた、酷い裏切りという一見無関係な物語。 はてさて、著者は、読者をどこに導いてくれるのでしょうか。

クライマックスは、予想通りに両性具有の旅役者、そして妓楼を逃げた娼婦の運命が重なります。まさに、因果はめぐるよ糸車です。読み進めるにつれ、登場人物たちの情念が、沸騰していきます。

子を喰らう鬼の伝説を含め、前半の伏線がミステリの如く回収され、さらに濃密さが増してくるという趣向です。匂い立つような人肌のねっとりした感覚と、心身を痛めつける寒さが絶妙に表現されています。

結局のところ、本作品は、ホラーではありません。しかしながら、終盤にかけてのバタバタと人が死んでいくハラハラの興奮度はホラー並みです。これまでの粘度の高いエピソード全てを、イッキに清算するかの如き爽快さを感じます。

こりゃあ大した作品ですね。大満足。