【本の感想】ネヴィル・シュート『渚にて』

本の感想 ネヴィル・シュート『渚にて』

地球が滅亡するとき、人々はどのように過ごすでしょう。愛する人と一緒に?それとも、この際だから思いっきりイケナイことしちゃう?

ネヴィル・シュート(Nevil Shute)『渚にて』(On The Beach)は、世界の終末の情景をじっくりと描いた作品です。

本のみならず、映画でも度々扱われるテーマですから、”最期の日”は人々を惹きつけるのでしょう。自分にとっては、人たることを試される究極の恐怖です。

中ソ戦争が拡大した第三次世界大戦により、北半球は、核により壊滅してしまいました。放射能は、徐々に世界を覆いつくしていきます。核の難を逃れたオーストラリアの人々にも、最期の日へのカウントダウンが始まっるのです ・・・

リチャード・マシスンの終末もの『終わりの日』は、破滅を目前としたときの、人々の暴徒と化していく姿が鮮烈な作品でした(これも名作なので是非お読みあれ。中村融、山岸真 編『20世紀SF』第二巻に収録されています)。

本作品は、『終わりの日』と随分、様相が違います。人々は、最期の日まで普段と変わらない日々を送ろうとするのです。タイムリミットが近づいていることに気づきながら、世界が永遠に続くがごとく振舞います。

オーストラリア海軍将校ピーターとメアリー夫妻、アメリカ人の潜水艦艦長ドワイト、ピーター夫妻の友人モイラ、科学者ジョンを通して、滅びていく世界が映し出されていきます。

美しい花々を咲かせるため、庭の手入れに余念がないメアリー。故国が壊滅していることを知っていても、妻子のためにプレゼントを探すドワイト。タイピストを目指し学校に通い始めるモイラ。 ・・・

登場人物たちは、明日がないことを理解しているにもかかわらず、明日を夢見ざるを得ません。挿入されるエピソードの中に垣間見えるのは、彼らのギリギリの精神状態です。しかし、自暴自棄になるでもなく、狂気にかられるでもない。徐々に変化していく暮らしぶりに、粛々として従う人々。現実逃避ではなく、諦念の境地のようです。ゆえに、悲愴さが一層、際立ちます。

本作品には、運命に抵抗する人々は一切登場しません。徐々に放射能に蝕まれ、静かに命が消えていくのを待つのみ。そこには、儚くも美しい人間の尊厳を感じることができるでしょう。なるほど、本作品は文学としてもつうじる名作です。

グレコリー・ペック主演『渚にて』

本作品が原作の、1959年公開 グレコリー・ペック主演『渚にて』はこちら。