【本の感想】高野和明『ジェノサイド』

高野和明『ジェノサイド』

2011年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門1位。
2011年 第二回 山田風太郎賞受賞作。
2012年 このミステリーがすごい! 国内編1位。
2012年 日本推理作家協会賞 長編及び連作短編集部門 。

高野和明『ジェノサイド』は、人類の未来をテーマにした冒険小説です。本作品の発表時は、ミステリ関連の賞を総なめにした感がありますね。

ピグミー部族を殲滅せんとコンゴ共和国へ潜入した四人の米国傭兵の活動と、父の遺言を受け秘密裏に創薬の研究を進める日本の学生の日々が並行して語られます。タイトルのジェノサイドは、大量殺戮の意味ですから、傭兵たちの行動が主軸になりますか。

傭兵たちは、 難病の子供を抱えたジョン・”ホーク”・イエーガーを中心に、指令の意図が分からないまま危険な任務を遂行中です。一方、東京では、大学院生 古賀研人が、何者かに狙われながら、研究に没頭しています。専門的な教育を受けていない学生が、独力で創薬に取り組むという点は、ハテナ?ですが、ここに疑問を持っては先に進めません。二つに分かれたストーリーの展開に、身を任せましょう。全く接点のない話を、読者を立ち止まらせることなく引っ張っていく、著者の辣腕ぶりが堪能できます。

驚くべきは、圧倒的な著者の知識量です。疑いを差し挟む余地のないほどの畳み込みに(自分に知識がないだけか)、平伏してしまいました。読み進めると化学の突っ込んだ議論に巻き込まれますが、全てを理解する必要はありません。流れに乗っかっていけば、分かったような気になります。

二つのお話ともに、ピンチピンチの連続で、登場人物たちのうっかりぽっかりに起因するものの、ハラハラドキドキは十分に味わえます。イエーガーらと古賀が辿り着いた真実とは何か。人類の災厄をもたらすもの?、それとも・・・

地理的な制約を超え、ストーリーが合流するあたりでは、おもわず溜息がもれてしまいます。

本作品は、あの傭兵はなぜチームに選ばれた?等、気になる所はあるものの、それを吹き飛ばす熱量の高い力作です。

実際に、現在の人類の未来を変容するものが予見されたら、人々はどういう判断を下すのでしょう。宗教的なものがなければ、まぁ、いいんじゃね?って済んじゃうような気もします。特に、日本人はね。

ポストヒューマンものとしては、石ノ森章太郎『サイボーグ009』の元ネタである シオドア・スタージョン『人間以上』が名品です。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します