【本の感想】籘真千歳『スワロウテイル人工少女販売処』

本の感想 籘真千歳『スワロウテイル人工少女販売処』

2010年 第10回センス・オブ・ジェンダー賞話題賞受賞作

ライトノベルへの食わず嫌いがかなり払拭されてきた今日この頃。ライトノベル=大人の読み物ではない、という偏見は、誤りだったことに気づきます。感涙ものの作品に出会ってしまうこともしばしばです。

籘真千歳『スワロウテイル人工少女販売処』は、おじさんの魂を激しく揺さぶる作品です。

ライトノベルに”らしさ”があるなら、本作品は、かわいらしいカバーイラスト、それと対称をなす扇情的ともいえるタイトル、大仰の中に幼さを残した会話、哲学的と衒学的の間をふらふらしているような表現方法でしょうか。

本筋はハードSFですが、幻想的な美麗さと性的なグロテスクさをあわせもった世界観に、すっかりハマってしまいました。

冒頭から何?、何故?が続くのだけれど、ストーリーの展開にともなって疑問が氷解していきます。読了したときに、本作品の設定が、すっかり理解できるようになっているのです。取っ掛かりで躓かず、とにかく読み進めることが大事でしょう。

関東湾に浮かぶ人工島。そこには、<種のアポトーシス>に感染したものが住まう男女別自治区があります。自治区はすべての問題から解放された理想郷でしたが、<種のアポトーシス>のために、男女は共棲することができません。人々は、人間を模して造られた相対する性の人工妖精(フィギュア)とともに、日々の生活を営んでいます。

人工妖精は『人工知性の倫理原則』に従って、人間に危害を加えることができません。しかし、男性側自治区で、”傘持ち”(アンブレラ)による連続殺人が発生していました。自警団 曽田陽平と、倫理原則の適用が除外されている不良品 人工妖精の揚羽(アゲハ)は、”傘持ち”を追ううちに、被害者の男性に子宮があることを発見します。”傘持ち”の正体は?その目的は?やがて揚羽は、自治区の存亡を左右する大きな陰謀に絡めとられていくのでした ・・・

タイトルから連想するより、はるかにスケールが大きく、入り組んだストーリになっています。伏線をはりめぐらせたミステリ仕立てのプロットに、エッジの効いたキャラクターが活躍する満足度の高い作品です。アクションシーンの迫力と緊張感、そして揚羽の舞いのような所作は、一気読みをさせる力を持っています。一方で、朽ちていく人工妖精を、蝶型の微細な擬似生物へ変じていく様として描くなど、絵画的なイメージを喚起させるシーンが多いですね。

ヒトならざるものの苦悩を描くにおいて、ありがちな甘ったるさに陥ることがありません。クールさを保ちつつ悲哀を謳いあげているのが、本作品の素晴らしいところです。

そこここで取り上げられているけれど、揚羽が人工妖精を粛清するときの口上がシビレてしいます。

執刀は抹消抗体襲名、詩藤之蛾東晒井ヶ揚羽。お気構えは待てません。目下、お看取りを致しますゆえ、自ずから然らずば結びて果てられよ!

本作品は、広い年代に読まれてしかるべしと思うのですが、タイトルは、内容と離れているような気がするんですよねぇ。おじさんには手を出しにくくはあるのかもしれません。

本作品を読んで、永井豪「都市M1」(1979年)という男女別世界の悲恋もの思い出しました。当時、きゅんきゅんしたっけな。