【本の感想】アニー・ジェイコブセン『エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実 』
アメリカ最大の政府管理区域に存在するエリア51。
公でないのにかかわらず、誰もが知っているという不可思議な秘密(?)基地です。アポロ月面着陸捏造説や、ロズウェルの未確認飛行物体墜落説と共に語られ、長らく大衆の好奇の目に晒されているからに他なりません。
アニー・ジェイコブセン(Annie Jacobsen)『エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実 』(Area 51: An Uncensored History of America’s Top Secret Military Base)は、関係者のインタビューと、機密解除された公文書を基に、エリア51の真実に迫るノンフィクションです。
当然ながら、未確認飛行物体や宇宙人にまつわる噂の真相が知りたくて、本書を手に取りました。けれど、ここにロマンを求める読者は、期待を裏切られることになるでしょう。
著者は、エリア51(および隣接するをネヴァダ核実験場)で実行された数々のプロジェクトを、アメリカとソ連の核開発におけるチキンレースや、国防総省とCIAの権力闘争を絡めながら述べていきます。本書は、現実をとことん追求しているがゆえに衝撃的です。
第二次大戦、マンハッタン計画、朝鮮戦争、ケネディ暗殺、キューバ危機、ベトナム戦争、湾岸戦争、アルカイダという70年に及ぶ歴史上のトピックの、ちょうど裏面史になっています。
第二次大戦終結に伴って、アメリカとソ連がドイツ人科学者の争奪合戦を繰り広げ、軍事研究に従事させているのには驚かされます。ネヴァダでは、杜撰な管理下で、地上、地下、計1千発に近い原発実験が行われていたといいます。人体に対する放射能の影響が分かっていなかった時から、実験が繰り返されていたのです(これが後の人体実験につながるのだそうです)。
訳者あとがきにもある通り、汚染された土壌をミミズが摂取し、それを鳥が捕食して、拡散するという恐ろしさは永遠に続いていきます。プルトニウムの半減期が2万年であることを考えると、対岸の火事ではありません。
エリア51内での従事者は、情報適格性によって区分けされ、誰が何をしているかを理解していないようです。情報適格性のもとでは、大統領ですら触れることのできない情報が存在します。ここでおこなわれているプロジェクトの全体を把握し、統制しているのは、一体、誰なのでしょう。全世界の命運を、得体の知れない組織体が握っているという危うさが、ここにあります。
エリア51での、CIAよる高高度音速偵察機の開発経緯や、知られざる事件・事故、試行錯誤するステルス技術、ソ連の対抗策、空軍による主導権の奪取、ミグのリバースエンジニアリング、無人爆撃機等、読み所はてんこ盛りです。すらすらと読み進めることは難しいのですが、知的好奇心は十分に満足させてくれるでしょう。
特に興味を引くのは、未確認飛行物体についての著者の論述です。ここだけは、多くの人が、突拍子もないと思うのではないでしょうか。どちからというと、未確認飛行物体そのままの方が、理解し易いですね。この珍説を拝見するだけでも、本書を読んだ価値はありました。