【本の感想】窪美澄『ふがいない僕は空を見た』
2011年 第24回 山本周五郎賞受賞作。
窪美澄『ふがいない僕は空を見た』は、男子高校生の卓巳と主婦 里美の不倫を軸に、卓巳のガールフレンド 七菜、友人 良太、卓巳の母親、それぞれの人間模様が描かれた連作短編集。本読みの方々には、「ふがぼく」でお馴染みの作品です。
卓巳の視点で描かれた第一話「ミクマリ」から、里美の視点で描かれた第二話「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」までは、アニメキャラのコスプレをしながら性行為に溺れる二人の過激な描写や、そもそもの不倫という設定の必然性に疑問を持ちました。性行為中の微に入り細を穿つ表現を読んで、この辺りで挫折してしまう読者が多いでしょう。女性作家としての、攻めの姿勢の表れなのかもしれませんが。
じゃあ、ただのエロ小説かい?
いえいえ、全然、違います。全編を通して見ると、登場人物それぞれのピュアでナイーブな精神面が浮き彫りになってくるのです。
不倫が世間に晒され汚辱にまみれてしまった卓巳と里美。各短編では、主人公を変えながら、並行して事の顛末が描かれていきます。特に、卓巳に恋する七菜が主役の第三話「2035年のオーガズム」は、卓巳に対する溢れる想いが切なくて、胸がアツくなってしまいました。貧困の中にいる良太「セイタカアワダチソウの空」、母の慈しみ「花粉・受粉」と続き、 卓巳の成長を感じつつ読了すると、忘れ難い作品となっているのに気付きます。各短編を独立の物語として読んでも、深い感銘を受けることでしょう。自分は、「花粉・受粉」の母親の振舞いに共感しました。誰に感情移入できるかは、読者の今置かれている立場によりますね。
タイトルからは、どんなに不甲斐なくても、今が最悪の状況であっても、明日を生きる術はある、というメッセージを受け取りました。性描写が鮮烈なだけに、その反動からか、ずぃーっと心の襞に分け入ってくるのです。なるほど、本作品は、ふるい落とされなかった読者のみに、伝わるよう意図されているのかもしれません。
本作品の登場人物たちには、より一層絆を深めた者がいる一方で、潔く絆を断ち切った者がいます。その後の彼らがどのように成長したのか、とても気になります。もっとも、著者は、続編を書かないでしょうけれど。
本作品が原作の、2012年公開 永山絢斗、田畑智子 出演 映画『ふがいない僕は空を見た』はこちら
主婦と男子高校生のコスプレ不倫に時間を割いているからか、原作の良いところが十分に描写されていないように思います。主婦、男子高校生の視点を切り替え、時制が行きつ戻りつでなかなか話が進みません。原作の七菜のエピソードがまるっとないし、良太の行動にも腑に落ちない点があり・・・。