【本の感想】ジェフリー・ディーヴァー『追撃の森』

ジェフリー・ディーヴァー『追撃の森』

2012年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門8位。

ウィスコンシン州ケネシャ郡湖畔の別荘地からの緊急通報の発信。女性保安官補ブリンが訪ねると、そこには男女の射殺死体が。犯人と目される二人組に銃撃されたブリンは、傷を負い、武器を失って彼らから逃れるべく深い森の中へ。同行者は、射殺された男女の友人ミッシェル。追われるものブリンとミシェル、追うものハートとルイスの戦いが始まります ・・・

ジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)『追撃の森』(The Bodies Left Behind )(2008年)のストーリーは、全編の8割がたが、ブリンとミシェルの満身創痍の逃避行を中心に展開します。知力、体力総動員で罠を仕掛け、ミスリードを試みるブリン。敵もさるもの裏の裏まで読んで執拗に追跡するハート。ブリンとミシェル、ハートとルイスの交互の視点で、追いつ追われつが描かれます。

女たち対男たち。そして、女たち、男たちそれぞれの不協和音。語り始められる女たち、男たちの過去。人間模様が鮮明になっていく中で、対峙する二つのチームの駆け引きが、緊迫感を盛り上げます。

孤立無援の追跡劇の中で起こる様々な出来事、新たなトラブル。優位がすぐさま劣勢へと、目まぐるしく変わるどんでん返し。相当ヒネリが効いているのですが、ここで終わりと思いきやと、あっと驚く超ド級の大ヒネリが待っています。何かあるはずと読み進めながら警戒をしていたにも関わらず、あっさりとやられてしまいました。そこにくるのかぁ。それでもなお、畳み掛けるようにヒネリまくられていきます。

本作品では、逃避行の裏っ側で、ブリンの家庭の問題が語られます。前夫からのDVで顎が曲がってしまったブリン。グレてしまった息子に負い目を感じ、再婚した夫との間に隙間風が吹き始めています。それでも仕事に情熱を燃やさざるを得ないという設定です。ハートが認め、生かしておけないと決断するに至るブリンの本質。この関係性の描き方がとても巧みです。ただ、事件の結果が、この関係性をどう変化させるかについては、もう少し深味が欲しかったなぁと。

ラストの決着の付け方が、やけにあっさりしていると思いうのですが、これはどうでしょう。最後の最後でまたヒネられると、読了した時、疲れが残ってしまいますね。贅沢かな。