【本の感想】綿矢りさ『蹴りたい背中』

綿矢りさ『蹴りたい背中』

2004年 第130回 芥川賞受賞作。

綿矢りさ『蹴りたい背中』は、女子高生の孤独を描いた作品です。

女子高校生ハツはクラスの中で浮いています。きっかけは、理科の実験の班編成。ハツのような人にとって、先生の「適当に班をつくって」というのは辛い指示です。あれよあれよという間に取り残されてしまうハツ。こういうシチュエーションでは、自分の中から湧き上がってくる惨めさに押し潰されてしまいます。周りの人が見ているよりも殊更深刻な状況に、自らを置いてしまいがちです。

しっかりと仲間を作っている中学校からの友人 絹代に、裏切りを感じるハツ。「あの人たちはくだらない」という すっぱい葡萄の論理で自分を護るしかないのです。ハツは所属する陸上部でも上手くとけ込む事ができません。ハツのぶきっちょなもの言いが、さらに皆との壁を高く、そして厚くしてしまいます。

小学校3回、中学校3回転校した自分は、同じシチュエーションを経験しているので、共感することしきりです (そんなに転校してるなら、経験的に処世術を学んで上手くやれよって話ですが)。

ハツの孤独を、著者は、”さみしさは鳴る”と表現しています。仲の良さそうなざわめきが、ハツの耳を通して胸に突き刺ってくるのでしょう。本作品の中では、このような、著者の独特な表現方法が見られます。平易な言葉の組み合わせで、感情の広がりを表すことができる綿矢りさ 19歳(当時)恐るべし。

ハツのクラスで、もう一人の浮いている男子 にな川。にな川は、ファッション雑誌のモデル オリチャンに夢中で、オリチャンを中心に世界が動いています。ハツは、そんな にな川から目を離せなくなります。恋愛感情でしょうか?

確かに、ハツは、二人の間を勘違いされても、真っ向から否定はしません。ハツは、にな川に自分と同じ孤独を見出したいのでしょう。何かに夢中になっている にな川は、ハツからは、クラスから孤立していても意に介していないように映るようです。どこか超然としている にな川へ嫉妬をしてしまう。だから、ハツは、にな川が辛い目に遭っているのが見たいし、背中を蹴りたくなるのです。

孤独に直面して、気持ちになかなか整理がつなかいハツの真っ直ぐさが、愛おしくなってしまう作品です。

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