ピタゴラスから、アンドリュー・ワイルズまで、数論とそれに情熱を傾けた数学者の歴史を紐解きつつ、フェルマーの最終定理が如何にして証明されたか、その足跡を著わすものです。数学嫌いにも感動を与えるサイモン・…
【本の感想】シャロン・バーチュ・マグレイン『お母さん、ノーベル賞をもらう―科学を愛した14人の素敵な生き方 』
シャロン・バーチュ・マグレイン(Sharon Bertsh Mcgrayn)『お母さん、ノーベル賞をもらう―科学を愛した14人の素敵な生き方 』は、ノーベル賞に関わった女性科学者たちの奮闘の歴史を著したものです。
14人の女性科学者の生い立ちから、彼女たちがこの世界に残した偉大な業績、そして現在に至るまでが紹介されています。
本書には、母親と科学を両立した女性だけでなく、恋人を失い独身を貫いた女性や、科学のために結婚しないことを決断した女性も登場します。成果を認められながら結果的に受賞に至らなかった女性も取り上げられているので、邦題の『お母さん、ノーベル賞をもらう』は、ちょっとニュアンスが違うかもしれません(原題は『Nobel Prize Women in Science』)。
本書執筆時、自然科学分野で女性のノーベル賞受賞者は9人で、男性のノーベル賞受賞者の3%なのだそうです。ノーベル賞だけ見ても女性にはハードルが高いのが分かるのですが、そもそも、長らく女性が科学を学ぶということ自体が難しかったようです。ここは、瀧澤美奈子『150年前の科学誌NATUREには何が書かれていたのか』でも言及されています。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)
20世紀の中頃までの欧米では、女性にとって科学者の道が開かれていたわけではありません。女性は家事と子育てのために作られたという風潮が一般的だったのです。あるときは性差別に苦しみ、あるときは人種差別に苦しむ女性科学者の姿がつづられていきます。無給であろうが、劣悪な研究環境であろうが、自分の信じた道を邁進していく。本書に登場する女性科学者たちは、それぞれの性格は違っても、努力を厭わない精神力と逆境を跳ね返すバイタリティは共通しています。本書は、ノーベル賞を受賞するしないに関わらず、艱難辛苦を乗り越えた先で栄光を掴んだ女性科学者の列伝なのです。
女性科学者たちはできる限り家庭を大切にしているものの、妻として、また母としてより、優先順位が高いのは科学だったようです。これも共通しているのですが、子供たちも同じ道を歩んでいることから、母の姿を誇りに思っていることは想像に難くありません。キュリー夫人の娘でノーベル賞を受賞したイレーヌ・ジョリオ・キュリーが、良い例でしょう。
本書で自分が知っている女性科学者は、二度のノーベル賞受賞者 マリー・スクロドフスカ・キュリー(キュリー夫人)と、『二重らせん』でワトソン博士に酷い書かれようをされたロザリンド・エルシー・フランクリンだけ。その他の12名は全く未知の女性科学者ばかりです。
ノーベル賞を受賞した業績については、今ひとつ理解が及んでいないのかもしれませんが、それぞれの個性をものがたるエピソードが満載で、楽しく読ませていただきました。全般的にフェミニズムっぽい論調ではあるのだけれど、手軽に読める女性科学者列伝が少ないので、お勉強になる一冊としてお薦めします。
本書に登場する女性科学者は次のとおりです。
リーゼ・マイトナー/エミー・ネーター/ガーディ・ラドニッツ・コリ/バーバラ・マクリントック/マリア・ゲッペルト・メイヤー/リタ・レヴィ=モンタルチニ/ドロシー・クロフォード・ホジキン/呉建雄/ガートルード・ベル・エリオン/ロザリン・スッスマン・ヤーロウ/ジョスリン・ベル・バーネル
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